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眠りについて知ろう

海外旅行先での子どもの時差対策

 7月末から学校が夏休みに入ります。お子さまと一緒に海外へ家族旅行に出かけることもあるでしょう。大人も時差ぼけでせっかくの海外旅行を楽しめないことがありますが、子どもの場合は、大人とは少し違った時差ぼけ症状を示すことがあります。観光や食事中に急に眠り込んでしまう、睡眠中に奇妙な行動がみられるなど、知っておくと「な~んだ時差ぼけか!」と海外旅行先で不安にかられることも減ると思われます。

 まずは「時差ぼけ」について知っておきましょう
 4~5時間以上の時差のある場所への急速な移動によって、体の中の複数のリズム(生体リズム)現象がうまく同調して働かなくなり、生体機能の失調が生じてしまうのが時差ぼけです。現在のように、人間が5時間以上の時差のある地域へ急速に移動できるようになったのは、たかだか数十年前からです。進化の過程で獲得した、次のような生体リズムの特徴が、時差ぼけを起こす原因なので、時差ぼけを避けることは難しいのです。人間のサーカディアンリズム(約24時間の周期で変動する生体リズム)を示す生命現象を支配する体内時計が複数存在すること、睡眠の発現様式がサーカディアンリズムに影響を強く受けていること、サーカディアンリズムを支配する体内時計の周期や位相が、その本来の役割から、高い自律性(外部環境の周期的な変動による手がかりがなくても、生体自体が持つメカニズムで周期性のリズム変動を持続的に示す)を持つことが原因です。

 人間には多数の体内時計があり、そのマスタークロックは脳内の視床下部の視交叉上核(SCN)に存在します。SCNのクロックの発振周期は、人間の場合、24時間より少し長めの周期で変動し、約24時間の地球自転による光環境の変動により調整されています。多くのサーカディアンリズム現象は、SCNの支配下にあり、特に深部体温や自律神経活動、メラトニンやコルチゾール等の一部のホルモンの分泌リズムは強い支配を受けています。また、夜間の尿量を抑制する抗利尿ホルモンの分泌リズムもSCNの支配が強いのです。約24時間の地球環境にSCNが同調している場合には、夜間に深部体温が低下し、眠りやすくなるメラトニンが分泌され、抗利尿ホルモンも夜間に分泌が上昇し睡眠中は排尿が抑制されます。朝方からは目覚めやすくするコルチゾールの分泌が始まります。一方で、睡眠・覚醒リズムはSCN以外の脳内に存在する体内時計に支配されていて、SCNの影響下にありますが成人では支配力は弱いのです。ところが、SCNによる他の生理現象の体内時計への支配力は、人間では小さい子どもほど強く、加齢とともに支配力が低下します。旅行先でも数日間はSCNのリズムに出発地の影響が強く残ります。海外の旅先で、幼児が日中に眠り込んでしまい、どうしても目覚めさせられないような困った状況に遭遇するのも、このような理由によるのです。旅行先で何時頃に最も眠くなるかを推定することができます。国内で午後11時に眠りにつき、午前8時に目覚める習慣がある子どもでは、睡眠時間帯の中点の午前3時30分の前後が最も眠い時間になります。ハワイに旅行したとしましょう。ハワイではサマータイムを実施していませんので、時差はマイナス19時間です。最も眠い時間は午前8時30分前後になります。このように、旅行先の時差と国内での睡眠時間帯の中点から旅行先での眠気の強い時間を推定できます。この時間帯に仮眠を取るか、注意して観光スケジュールを組んでおけば、子どもが眠り込んでしまい困ることは減るでしょう。

 子どもの場合、旅程の都合で睡眠から急に目覚めさせられる場合やサーカディアンリズムの影響で目覚めてしまう場合も多く、睡眠障害のなかでも覚醒障害が時差のある旅先では問題となることが多いでしょう。深睡眠から急激に覚醒した場合に起こることが多い錯乱性覚醒や夜驚症、徐波睡眠中に始まり意識の極度に低下した状態で複雑な行動をとることもある睡眠時遊行症(夢中遊行)などは、覚醒機能に対する強い睡眠慣性の影響で、目覚めていても大脳皮質の働きが極度に低下していることによるものです。また、時差による複数の理由で、睡眠時遺尿症(夜尿)も起こることがあります。その他、サーカディアンリズムの異常により寝ついた時や目覚めるときにレム睡眠が出現し、金縛りが起こることもあるようです。

 このように、時差により生じる可能性のある子どもの睡眠障害は多いのですが、保護者がこれらの症状と原因が時差であることを認識していれば、一過性の現象なので不安にかられることは少ないでしょう。その他、小児のインスリン反応性糖尿病など維持療法のような薬剤投与や食事と時刻との間に強い因果関係がある疾患では、体内の時間(サーカディアン・タイムといいます)と時差による現地時刻の差を考慮した服薬等の指導を必要とする場合もありますので主治医と相談するとよいでしょう。

文章:睡眠評価研究機構代表 白川修一郎先生

日本睡眠学会 Japanise Society Of Sleep Research
JOBS 一般社団法人 日本睡眠改善協議会