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眠りについて知ろう

睡眠とリラックス

 12月は師走(しわす)とも呼ばれています。師走は当て字で、語源については諸説あるようです。師僧がお経をあげるために、あちこちを走り回る月なのでとの説が有力なようです。江戸時代は、掛け売りした代金を年の瀬までに回収するために、人々があちこち駆けずり回ったので、時代の風潮にもあった言葉だったのでしょう。現在でも、家によっては大掃除とお正月の用意で、12月は何かと忙しい月でもあります。どこかでリラックスしたいと思うこともあるでしょう。でも、リラックスするとはどんなことなのでしょうか。少し科学的観点から探ってみましょう。

 リラグゼーションのキーワードでインターネットのWebサイトを検索してみました。2006年に検索した時も5万件以上ヒットしていましたが、2019年11月には64,00万件以上もヒットします。なんと、1,280倍です。ちなみに同時に睡眠のキーワードで検索してみますと、3億19,00万以上ヒットしました。2003年のGoogleでのヒット数は、約500件でした。63万8千倍です。現代日本が高ストレス社会であり、リラックスに対する人々のニーズの高いこと、それにもまして睡眠についての関心が強いことを示しています。しかしながら、厚生労働省の平成29年「国民健康・栄養調査」で、ここ1ヶ月間、睡眠で休養が十分に取れていない人は21.9%と報告されています。

 リラックスは、休養やくつろぎ、気晴らし、娯楽などにより、緊張している状態が、本来もっている元の心身の状態に緩和され定常状態に向かうことを意味します。言葉の上では定義されていますが、リラックスとは何を意味しているのでしょうか。体験的には理解できているように思われますが、科学的な言葉で説明しようとすると、なかなか難解です。

 リラックスの対極は、緊張あるいは過覚醒です。その結果生じた心身の症状から考えてみると理解しやすそうです。緊張状態が心身に不調を与えるほど長く持続した結果生じる身体症状の一つに肩こりがあります。首筋や首の付け根、肩の筋肉が緊張し重くあるいは鈍痛を伴う状態です。筋疲労、自律神経失調、神経の過剰刺激が引き金となり、交感神経の過剰な亢進が生じ、末梢血管が収縮し血流が低下し、筋の血行障害、筋緊張によるうっ血などで肩こりが起こると考えられています。肩こりという単一の現象のみで考えると、この場合のリラックスは筋緊張と交感神経の過剰亢進の緩和です。

 阪神・淡路大震災などの自然災害、戦争体験、交通事故や強盗などの被害後、あるいは目撃などにより生ずる強い精神的外傷後の精神症状に外傷後ストレス障害(PTSD)があります。不安や憂うつ感、意欲の欠如、無力感や絶望感、罪悪感や理由のない怒り、不眠や錯乱などの精神症状、動悸や発汗など自律神経症状、過覚醒などの大脳皮質性の興奮がみられます。心にくわわった過剰で衝撃的なストレスが、大脳辺縁系の異常亢進や自律神経失調、大脳皮質の過覚醒を引き起こしたことにより生じた症状と考えられています。過覚醒の原因としては、覚醒系の神経伝達物質であるセロトニンの欠乏や覚醒系の最終的な神経伝達物質であるグルタミンの調節障害などが推定されています。

 このようにリラックスの対極には、筋緊張の過剰な持続や血流障害、交感神経の過剰亢進、過覚醒、情動的興奮の持続が存在します。一方で、リラックスの極では、筋緊張の緩和あるいは弛緩、筋を取り巻く血流の増加、交感神経活動亢進の緩和、過覚醒からの定常的な安静覚醒状態への回復、情動的鎮静になるでしょう。これらの全てをリラックスという一つの言葉で捉えてしまうところに、科学的な側面から理解しにくい原因があるように思われます。

 情動系の鎮静による不安や心的緊張の緩和については、様々な手段や薬剤が開発されています。ベンゾジアゼピン(BDZ)系の抗不安薬(マイナートランキライザー)は、不安や緊張状態の治療に用いられる薬剤で、筋弛緩作用や自律神経安定作用も持っています。BDZ系薬物は、脳内のGABAの作用を増強します。GABAは抑制性の神経伝達物質です。その作用を増強することで脳の広範な部位での神経活動を抑制し、それが抗不安作用を示すと考えられています。情動の中枢は扁桃体などの大脳辺縁系にあり、自律神経系の最上位中枢である視床下部を制御もしています。GABAの作用の増強は、特にこれらの脳部位で明瞭なのです。

 また、情動系に関しては香りによる鎮静作用も知られています。香りの効果には、上行性に嗅脳から大脳辺縁系を介した鎮静作用、副路を介した自律神経系への直接的な作用が知られています。ラベンダ-、カモミール、セドロールなどでは、交感神経活動の減弱作用と情動系の鎮静作用が確認されています。

 リラックスに関係する自律神経活動と大脳皮質活動とはどのようなものでしょうか。自律神経には交感神経系と副交感神経系があります。正常な状態での自律神経活動は、約24時間周期で変動する生体リズムに支配されています。自律神経系による調節は、循環、呼吸、消化、排泄、生殖、体温調節、血糖調節、瞳孔と広く全身におよんでいます。生命を維持するために、交感神経系と副交感神経系は持続的に活動しています。外的・内的環境が変化し、自律神経系が制御する生命現象が正常範囲から逸脱した場合には、交感神経系あるいは副交感神経系が調節的に働き状態を一定に戻そうとします。交感神経系あるいは副交感神経系が過剰に興奮した状態では、リラックスした状態とはいえないのです。副交感神経系はコントロールすることが難しいのですが、交感神経系はあんがい容易にコントロールすることができます。深く息を吸ってゆっくりと息をはきだしてみましょう。この時、交感神経系の活動は低下し心拍数も遅くなります。呼吸を上手にコントロールすることで、交感神経系の過剰な緊張をやわらげることも可能です。

 脳の状態はどうでしょうか。脳が活発に働いているとき、不安やジレンマなどでイライラしている時、脳波は低振幅で速い周波数の波が、ほとんどを占めます。α波の脳波が出るとリラックスしている証拠といわれますが、一部は正しく一部は都市伝説です。目を閉じて何も考えないようにすれば、10人のうち8~9人ではα波が出現します。脳をリラックスさせるためには、このような目を閉じて何も考えない状態を、せめて10分程度は続ける必要があります。イライラしているとき、不安なとき、緊張しているときに、このような状態を続けるのは難しいですね。

 最も良いリラックスの方法は眠ってしまうことです。眠ると脳の活動は低下し休息し、情動的な過剰興奮もおさまります。とはいえ、悪夢をみることが多いかもしれませんが。交感神経系の活動も低下し休息します。筋の緊張も消失します。最良のリラックスした状態を、夜間であれば努力もせずに6~7時間も続けることができるのです。昼間であっても、短時間仮眠をとることで、情動系の過剰興奮を鎮静させ交感神経系の活動の亢進を減弱させます。筋の弛緩により過剰な緊張状態をリセットすることも可能なのです。

文章:睡眠評価研究機構代表 白川修一郎先生

日本睡眠学会 Japanise Society Of Sleep Research
JOBS 一般社団法人 日本睡眠改善協議会