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眠りについて知ろう

短時間仮眠の効用と上手なとり方

 過去には、昼寝(仮眠)は一時期不眠を引き起こす原因と考えられ、睡眠障害の専門医は不眠患者さんに極力昼寝を取らないように指導していました。確かに、就寝の8時間以内にとる長めの昼寝は、夜間睡眠の寝つきや安定性を悪化させます。また、不規則に混入する居眠りや昼寝も、体のリズムを乱してしまい、夜間の睡眠の質を悪化させます。特に、夕食後のうたた寝は要注意で、高齢者の不眠の訴えの原因であることも多いのです。部活動で疲れた中高生にしばしば見られる夕方の仮眠(夕寝)は、就寝時刻を遅くし、夜の主睡眠の不足を引き起こす原因となります。それが遅刻や授業中の居眠りの原因になる場合も報告されています。しかし、睡眠の科学的研究が進むにつれて、仮眠にはとり方によりメリットとデメリットのあることが明らかになってきました。
 仮眠はとる目的により予防的仮眠と補償的仮眠があります。習慣的な就床時刻からおよそ15時間後に日中の眠気は最も強くなります。生体リズム(約12時間の生体リズムで、サーカセミディアン・リズムと呼ばれています)の影響によるものです。予想される強い眠気がくることを防ぐ目的でとる仮眠が予防的仮眠です。睡眠不足が蓄積し、その負債を解消する目的でとる仮眠が補償的仮眠です。生活の中で、自分の目的に応じて使い分けると効果的です。
 予防的仮眠は、脳のリフレッシュを目的としています。長時間よりも短時間の方が、その後の活動を考慮すれば効果的なのです。どのくらいの時間が有効かということも、現代の睡眠科学の研究で判明しています。年代によって異なり、10代では10~15分程度、20代~55歳くらいまでは15~20分程度、55歳以上では30分程度です。この時間には意味があります。仮眠が一定以上の時間続くと深い睡眠が出現してきます。深い睡眠から目覚めることは難しく、仮眠から覚めても睡眠の影響が続き、その後1~2時間は脳の働きが低下していることが多いのです。また、1時間以上の仮眠を不規則にとる高齢者では、認知症の発症リスクが高くなることも知られています。図1は、40代の睡眠が不足している男性に15分間の仮眠をとらせ、その効果を脳波(P300という事象関連電位)によって調べたものです。P300で脳内の情報処理に要する時間が計測できるのです。

図1 短時間仮眠による脳のリフレッシュ効果
図1 短時間仮眠による脳のリフレッシュ効果

 上段は睡眠の経過を、下段の左は判断の情報処理に要する時間です。短時間の仮眠後に15%近く判断に要する時間が短縮していることが判ります。図1の下段右は、振幅が大きくなれば注意を維持する脳力が増している(不注意になりにくい)ことを示し、15分間の仮眠後に2倍近くに改善しています。実際にとった睡眠の内容は、段階1という「うつらうつらした状態」と段階2という中程度の睡眠状態を合わせて10分ほどです。このくらいの睡眠でも、脳はリフレッシュし、通常の状態では、その効果は2~3時間持続します。短時間の仮眠をとってよい時間帯についても、就寝5時間前までであれば夜の睡眠にはほとんど影響しないことが判明しています。仮眠をとる習慣がない場合でも、3~4日続けると眠れるようになることが多く、目を閉じて安静にしているだけでも主観的な眠気は部分的に解消します。
 仮眠をとる場合には、安楽椅子などで背もたれの角度を床面から60度以上にしてとった方が、仮眠後すぐに活動体制に移れます(図2)。横になって仮眠をとると、血圧や体温が下がり睡眠慣性が働いて目覚めにくく、仮眠後に睡眠から覚醒への切り替えが難しいのです。また、眠ると首の筋肉の緊張が低下するので、頭が動かないよう保持しておかないと、首や肩がこってしまいます。足はのばした方が楽に眠れ、むくみの解消にも効果的です。

図2 短時間仮眠の望ましい姿勢
図2 短時間仮眠の望ましい姿勢

 仮眠をとる場所は、直射日光が当たる場所、騒音や振動の多い場所、暑すぎる・寒すぎる場所、臭気の強い場所は避けた方が良いでしょう。仮眠をとる前には、目覚ましを必ずセットしましょう。寝過ぎると逆効果です。また、仮眠前にお茶やカフェインの入った飲料を飲んでおくと良いことが報告されています。カフェインは、飲んで30分後くらいから効き始めます。仮眠が終わる頃にちょうど効いてくるので、仮眠を妨害せずに、仮眠後の睡眠から覚醒への切り替えがスムーズに進み、目覚めがすっきりするのです。さらに、仮眠直後は、できるだけ明るい場所にいると、仮眠の効果はより長く持続します。また仮眠後には、できるだけ明るい場所で軽い体操をすると睡眠慣性を早く消去することができます。睡眠負債の蓄積が大きいと、短時間仮眠でも睡眠慣性が5~10分程度見られることがあります。短時間仮眠後すぐに、危険な作業をすることは避けた方がよいでしょう。
 不眠傾向のある高齢者では、適切な時間帯(午後0~3時)に30分程度の仮眠をとる習慣をつけると、夜間の睡眠の質が改善することも判明しています。沖縄で、睡眠中に中途覚醒が多く睡眠が質的に悪化していた高齢者に、昼に30分程度の仮眠をとり夕方に30分程度の軽運動を週3日行うように指示し、それを4週間続けてもらった研究があります。連続的に活動量を測定できる腕時計型の機械を非利き腕につけて、指示前の1週間と4週間後の睡眠の状態を確認しています。指示前は、夜間睡眠中にまとまって活動している時間帯(中途覚醒)がかなり見られていましたが、4週間後には、夜間睡眠中に活動している箇所はほとんど見られなくなり、中途覚醒が減少しグッスリと眠れる人が多くなっていました。午後0~3時に30分程度の仮眠をとることで、仮眠の後は眠気がなくなり、午後の活動性が増し、夕方に30分程度の軽運動が出来るようになったのです。夕方は体温が最も高い時間帯です。この時間帯に30分程度の軽運動(少し汗ばむ程度の有酸素運動)をすると体温のメリハリが良くなります。また、夕食後の居眠りやうたた寝も減ることが報告されています。睡眠中に体温がしっかり下がると、中途覚醒が起きにくく睡眠が安定し改善するからなのです。
 睡眠は心と身体の健康維持に重要な役割を持っています。睡眠が悪化すると高血圧、糖尿病、インフルエンザや肺炎などの感染症、うつ症状や認知症の発症リスクが大幅に増大します。また、睡眠不足や不眠により日中に混入する強い眠気は、事故や仕事中のミスを引き起こす大きな要因です。仮眠を状況に合わせ生活に取り入れることで、生活をより段取りよく充実させることも可能です。充実した生活は夜間の良質な睡眠を約束します。仮眠を上手に利用して、生活の流れに良循環を作ってみてはいかがでしょうか。

文章:睡眠評価研究機構代表 白川修一郎先生

日本睡眠学会 Japanise Society Of Sleep Research
JOBS 一般社団法人 日本睡眠改善協議会